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彩遊記

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物語編集力

物語編集力_f0084105_10312476.jpgムラおこしとか、なんとかかんとか、どこからも同じようなことが聞こえてくる気配の昨今です。花のないなんとか園。星の見えないなんとか館。新幹線もない、JRもない。限界集落、いいじゃありませんか。キワを好む人たちも日本には大勢います。『日本版JOCV、限界集落に入る』という物語をつくりましょうよ。ムラおこしに大切なのは、そのムラの物語をつくることだと思うのですが・・

さて、さて、師匠筋にあたる高橋老師の話をトレースしながら『物語とはなんだろう』を解き明かしていってみます。

物語とは、音声や文字やしぐさを使って、思いを伝えることです。それをもうちょっと深く考えてみましょう。物語はシンタックス(構文)を使って、話し、書き、描き、身振りや手振りを加えて、セマンティックス(意図)を伝えることです。

一般的には、物語はナレーター(語り手)が聞き手に語るナラティヴなこととされますが、日本語の『ものがたり』は、ちまたに流布する噂からお堅い政局や経済の動向にまで会話する四方山話、男女の秘め事や赤ん坊のかたこと、作者がつくった文学作品までとても広範囲におよんでいます。

小学生の仲のいいグループが、みんなでわいわいおしゃべりをしているとき、だれか聞き手かを分けることなど出来ないでしょう。そこではぐるぐるお話がまわされ、思いもしなかったお話が尾ひれをつけて遊泳しています。



物語は原初的には語り手や、聞き手が未分化な状態で、幻想や虚構、仮説や事実をまぜこぜにしながら、未知への恐れや憧れがまじるあう興奮に包まれておしゃべりに発生します。このおしゃべり状態にあるグループを高速で伝わるのがうわさです。『口裂け女』の話など小学生の口から口を介して全国に伝わりました。

この熱狂は、一時、沈静化しましたが、その後、各地の地域特性を帯びたバージョンを派生しながら再燃し、そのプロトタイプは大転換をおこしていったのです。アニメ化や映画化、漫画化や小説化がおこり、しまいには韓国まで飛び火したのです。

これが、映画化されるにあたっては、彼女のキャラクタライズがおこなわれ、どんなストーリーでお話をすすめるのか、どんな環境で物語を展開するのか、物語を進行するナレーターをだれにするのかといったことが取り決められます。

映画の狙いを圧縮したテーマソング(音楽や詩歌)がつくられ、ポスターやパンフレットに描けば絵画やイラストになり、キャッチ腑レースやコピーが流布され、キャンペーン・イベントがくりひろげれれます。ゲームやアトラクションにもなり、そのアミューズメントパークが企画されたら、独自な建築や庭園や、展示がお目見えしていくのですね。


実際に物語を分析してみると、あるワールドモデルの型が浮上してきます。
ワールドモデルとは、一連の出来事が進行する時空間です。世界の枠組みであり、そこに関与するすべての物事や価値観を成立させる土壌になります。

型としては、「極限型ワールドモデル」「古典型ワールドモデル」「日常発見型ワールドモデル」などです。

上記に書いた、「日本版JOCV、限界集落に入る」のことですが、これは、戦場、結婚式、スポーツの決勝、試験、革命など、なんらかの成功や失敗を枠組みとした「極限型ワールドモデル」に入ります。

そこに「キャラクター」「シーン」「ストーリー」を設定し、ああでもない、こうでもないと試行錯誤しながら、おおまかなストーリーに寄り添って、現場アワセのように揺さぶりながら進めていくのです。“物語のあるムラ興し”って、近松門左衛門が言うところの「虚実皮膜」にも通じますね。

さて、話は一転して、このような物語の自然発生と分岐は、百の乳をもつアフロディーテが東の海からギリシャ世界に変容しながら渡ったとか、インドの祇園精舎を守る牛頭天王が刻々と京都に近づいてきたという伝承などにもみうけられます。

この変容しつづける物語を取材し、『5W1H』(だれが、なぜ、いつ、どこで、なにを、どのようにを整えて記述すれば、記事や歴史の項目にナリ、その不思議を仮説をたてて実証しようとすれば推理や科学になります。

このような情報を加工した成果をながめると、物語は『人間が情報を用いて達成する成果の基盤』を支えているといっても過言ではないでしょう。

さて、このような物語はどのように発生するのでしょうか。

これについては、三歳以前の幼児を観察すると興味深いことがみえてきます。幼児はいかなる情報環境にも適応できるように、成人の数百倍の細かさで音を聞き、色を見ているというのです。

そして三歳前後に急速な老化をおこして脳内シナプスの繁茂を刈りそろえ、音韻を分節することで発話が可能になり、構文が固定されていくといわれています。いわゆる幼児健忘症という時期にあたります。

およそ、三歳から五歳にかけれ短文期という発話状態が続き、構文にそくした短文を一定の順序に編集し、意図を伝えることができるようになると、記憶が発生します。

この時期は出来事を記憶し、再現し、伝え、共有できる『物語編集システム』の生成期です。日本人に最初の記憶の時期をアンケートすると、80%がこの時期と答えています。人間個人を観察してみて推測できる『物語スステム』の生成の過程です。

また、幼児健忘症とともに組み上げられる物語編集システムは、精神病理学によれば、両側前頭前野、右側頭葉外側部、右側扁桃体、海馬などに及ぶとされ、ここに疾患がおこると、意味のないおしゃべりをえんえんとつづけたり、表情や動作と話があわなくなって、内容が伝われなくなる症状が報告されています。

このシステムが故障すると、セマンティックス(意図)を伝える帰納に障害がおこるというわけです。このような事例から、物語編集システムを動かすエンジンともいうべき『物語回路』を想定することができます。

物語の研究は、物語回路が駆動する『内なる物語』を、人間の成果としての『外なる物語』を参照することによって、明らかにすることです。

日本の『序・破・急』や『守・破・離』はすぐれた物語の法則でもあります。この算段構成に全体のまとめを加えたのが『起承転結』で、中国の詩文の構成に発達しました。アリストテレスは四節三段構成の十二段文章法を推奨し、欧米の詩文の基本構造となっているのです。

この本は、ベルギーにいるダンサー日玉クンや、国営放送のまさとしさんやら、虎の穴で生死の3ヶ月を一緒に過した同期の桜が執筆陣に加わった結びの一番ぼんです。おいらの装丁は、グラフィックデザイナー桃志女史に敗れて散った思い出深い因縁ボンでもあります。お・わ・り


謝謝大家!


おまけ→http://togetter.com/li/543250

by ogawakeiichi | 2009-03-08 10:52 | 情報とデザイン
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