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彩遊記

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竹の反撃

北京の郊外、万里の長城を望む場所に、十二人のアジアの建築家によってデザインされた別荘型のホテルが山中に点在している。

いま中国のデザイン界では日本・香港・韓国・タイ・シンガポール・中国を代表する建築デザイナーが設計したこの隠れ家リゾートが注目を浴びている。以前、吉永小百合が出ている液晶テレビのCMに使われていた場所でもある。あの「竹の家」をデザインしたのが建築家・隈研吾だ。

上海や北京の街中にそびえたつ、西洋を意識しすぎて、ギラギラで奇抜なデザインの建築が多いなか、隈研吾がそのホテルに選んだテーマは「竹」だった。「竹」はいっけん安っぽく見える素材である。値段的な話でいうと中国などでは、ほとんどタダに近い。納屋とか小屋とか海水浴場の海の家とかのイメージだ。

アジアの人々の生活の全域に深く浸透する「竹」は、日本では数寄屋や茶室建築の材料として使われているが、中国では建築を組むための足場として使われるだけである。「竹の家」の計画段階では「中国でこれ、ホントに受けるかな?」と誰もが心配した。ところが、完成してみると、すごい人気のある建物になっていた。

単純にピカピカなものを求めているわけではない、成金趣味にはうんざりだという次の世代のリーダーたちがすでに現われている。素朴な自然素材を用いることで、記憶に残る「アジアのおもかげ」を引っ張りだしたのかも知れない。

もともと「竹」は中国において、仙人や賢者がひっそりと暮らす場所のシンボルであり、水墨画では必ず「竹」の描き方をマスターさせられ、漢詩にも多く詠まれている。「竹の家」にはそんなアジア観が滲み出ているのだろう。

建築家・隈研吾が「竹」をつかって工場再生する計画を進める熊本の醤油屋さんがある。その熊本に「竹のプロジェクト」がある。発起人はNHK朝ドラのモデルにもなった福井県小浜の若狭塗の老舗の箸屋さん。折れたバットを箸に再生産したり、「お箸知育教室」を誕生させたり、北京に店舗をつくったりとユニークで行動的な社長だ。九州の竹の魅力にとりつかれたらしい。

またプロジェクトの建築科出身のメンバーは、竹の流通過程で最もたいへんな管理と伐採を「竹伐採で汗をかいてダイエット、終われば大宴会」という、新鮮なアイデアで若い力を結集した。竹の生産者と、それを加工する人たち、さらにデザインする人たちが一体となったシステムをつくりあげた。

「竹」はアジア各地に自生しているが、その中でも特に品質のよい竹の産地が九州なのだ。竹の有効活用と産業化を九州から発信、さらには来年五月に開催される中国・上海万博で、「九州の竹」をデザインの力でかたちに変えて世界へデビューさせる計画だ。箸から建築にアジアの素材として見直された「竹」の反撃がこれからはじまる。
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by ogawakeiichi | 2009-05-03 17:30 | 南日本新聞コラム
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