http://www.1101.com/hara/2007-11-22.html
より。。すべてコピペ
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原 いま、積極的にやろうと思ってるのは、日本のお医者さんのプロジェクトなんです。
糸井 はぁ、お医者さんですか。
原 この平和な日本という国で6年間、医学部に通ったら医者になれてしまう。将来の食いっぱぐれもなさそうだし、女の子にだって、もてるだろうし。
糸井 だから、医学部に入りさえすれば‥‥って。
原 でも、その結果ですね、なんのために医療に携わっているのかという自覚のないまま、医者になってしまう人が多いじゃないですか。
糸井 医者としての理念を持ってない‥‥。
原 そこで、アジアのなかでもいちばん貧しいバングラデシュという国で、医療と教育を改善するための事業をはじめたんです。
糸井 バングラデシュ、ですか。
原 ええ、バングラデシュという国は幼児死亡率が非常に高いんです。
6人に1人の子どもが3歳までには、死んでしまう。そんな国に、たとえば日本の若い医学部生に行ってもらうと。
糸井 うん、うん。
原 かたわらで子どもたちが、バタバタ死ぬんですよ。放っておいたら。つまり、自分の手で子どもが死ぬのを助けられるんです‥‥というか、助けざるを得ない。
糸井 そういう経験をしていたら、きっと、いいお医者さんになるでしょうね。
原 ええ。それと、もうひとつ。
バングラデシュという国は平均年収が100ドル、日本円に直すと12,000円ぐらい。GDPにすると、だいたい1人1日、1ドル強。年でいうと400ドル前後でほんとうに貧しい国なんです。人口は約1億4,000万人で、日本より多く、面積は北海道の約1.7倍という小さな国。
糸井 最近、ニュースでもやってましたけど、洪水で水に浸かってたりしてましたね。
原 で、なんで貧しいかっていうと、ひとつ、「教育」の問題が大きいんです。
糸井 つまり、遅れている?
原 はい。たとえば、
大人の2人に1人以上、字が読めないんです。
糸井 識字率が、5割以下。
原 で、どういうところから教育を改善しなければならないかというと‥‥まずね、「教師」がいないんです。学校だけなら35,000校くらいあるんですけれど。
糸井 教える人がいないんですね。
原 だから、それらの学校どうしをワイヤレスのブロードバンドの先端技術でつないで‥‥。
糸井 ああ、放送大学だ。
原 しかも、大画面のハイビジョンでね。日本にもまだないような技術です、これは。
糸井 すごいな‥‥それは。
原 で、この改善事業、「慈善事業」では、やらない。
糸井 つまり、その事業を通じて利益も上げようと、そういうことですか。
原 そういうことです。
糸井 でもそれ、儲けようって動機というよりも‥‥。
原
非営利団体がやるような事業を営利の組織でやることによって、税引前利益の40%を、投下できるんです。
糸井 ようするに、非営利でやるよりも使える金額が大きいということですね?
原 そのとおりです。しかし、話だけでは信用されないので、まずは成功例を作って、そのうえで、
そうした仕組みを作りやすくするための法律を提言する。ですから、そのために、日本政府の委員会にも入ったりもしてるんですよ。
糸井 そうやって政府の側にいるのって、やはり、そっちのほうが合理的だからですか?
原 たとえば、民間の経済団体の会長なんかが首相や所管大臣に報告書を提出するとしますよね。民間ができることは、そこで終わり。で、その報告書どうなってます、いつも?
糸井 握りつぶされる‥‥ことが多い。
原 そう。テレビや新聞のうえでは、報告書を渡してる場面なんが報道されるかもしれない。でも、大部分、そこで「終わり」なんです。
糸井 だから、報告書を「もらう側」にいるんだ。
原 ええ、報告書をもらって、党で議論をしたり、政府の委員会で政策を決定していく。
つまり、法案をつくるところにいたほうがぜんぜん、効率がいいんですよ。
糸井 徹底的に、合理的なんですね。
原 ええ、時間がないんで、わたしには。
糸井 バングラデシュの教育・医療の改善事業を非営利でやらない、というのは、つまり、会社組織でやるということですか?
原 ええ、その事業に関しては、ブラック・ネットという会社をつくりました。
糸井 それ、原さんの本(『21世紀の国富論』)のなかにもちょっと、出てきますね。
原 これ、
株式会社とNGOのハイブリッドなんです。で、事業をすすめるにあたっては、安定はしてるんだけれど値段が高くて性能の悪い大手企業の設備じゃなく 小型で電力消費量も少ない中小企業のつくっている先端技術を採用しているんです。
糸井 さっき、おっしゃっていた学校と学校をつなぐブロードバンドに?
原 はい、そうです。株式会社とNGOのハイブリッドという会社の形態とその安価な先端技術のおかげで、20億円以下でできるんですよ、そのプロジェクト。日本のODA(政府開発援助)とかUNDP(国連開発計画)で試算をしたら だいたい600億円ぐらいかかるものが。
糸井 それは、安い‥‥というか、効率的にお金を使っている、ということですね。
原 ええ、20億円で、600億円を使った場合と同等以上の効果を出そうと。
糸井 それって、可能なんですか?
原 可能にするんです。600億円を出せる慈善団体なんて、 どこにもないじゃないですか。
糸井 ええ、そうでしょうね。
原 だから、みんな国の対外援助というかたちでやっている。でも、腐敗しているバングラデシュの政権に ODAなんかをやったら‥‥。
糸井 どれだけ、政治家の私腹を肥やすことになるか、と。
原 そう。そこで、先端のテクノロジーを使うことによって、 プロジェクト全体のコストを下げ、 しかも、
対政府だと賄賂なんかで効率が悪いですから、ぜんぶ、民間でやるというしくみにしたんです。
糸井 なるほど‥‥なるほど。
原 わたしたちはこのプロジェクトに実際に取り組んでいますが、2015年には、20億円ぐらいの税引前利益を出せる試算があるんです。これをふつうの株式会社でやったら、この20億円のうち、法人税やら株主配当やらで2億円ぐらいが内部留保になるわけですけど、そこから教育や医療の事業に使えるのは、せいぜい25%。
糸井 せいぜいといっても、かなり高い率ですよね、それ。利益の四分の一なわけですから。
原 おそらく、ふつうの企業だったら5%、がんばっても、せいぜい8%でしょう。 25%も使うぞと言ったら、もう「社長、大丈夫ですか!」ってくらい。でも、2億円の25%ですから、5,000万円‥‥。
糸井 つまり、それじゃ少ないと。
原 そこで、さっき言った「ハイブリッド」なんです。 このブラック・ネット社の資本のうち、6割をわれわれを含めた投資家、あとの4割を
「BRAC」っていうバングラデシュのNGOに拠出してもらう。
糸井 つまり、合弁というかたちですよね。
原 BRACはNGOですから、株主がいない。株主がいないってことは、どれだけ利益を上げても、株式配当は必要ない。
で、NGOというのは、その組織の理念のために利益を使うんだと、定款に書かれてるわけです。
糸井 ああ‥‥。
原 で、この合弁会社が、2015年に同じく20億円の利益を上げたとしたら?BRAC側の持株比率が4割ですから、20億×0.4で8億円のお金を 教育と医療に使えるんですよ、ぜんぶ。
糸井 さっきの5,000万円と比べたらぜんぜん、数字が変わってきますね。
原 だから、慈善活動では、やらないんです。それは、その活動自体で利益を上げて、その資金をつぎ込んで、慈善活動がやってること以上のことをやろうと思っているからです。
糸井 ほお‥‥。
原 ちなみに、
このBRACというのは 「マイクロクレジット」を開発したNGOなんです。
糸井 ああ、あれは興味ありますね。 貧しい人びとに少額のお金を無担保で融資して、自立を支援する金融のやりかたですよね。
原 貧しい人たちが自立するには、ごくわずかな資金があればいいのです。 しかし、そういう人たちに 無担保で少額のお金を貸すような金融は既存の考えではありえませんでした。
ところが、B
RACの人たちはその仕組みを考え、事業化し、担保もないのに100%近い回収を可能にしました。
この
マイクロクレジットと言えば、バングラデシュの「グラミン銀行」が有名ですが、彼らは、BRACからこのクレジットの方法を教わってそれを専業としただけなんですよ。
糸井 ああ、そうなんですか?たしかノーベル賞、とりましたよね。
原 ええ、グラミン銀行がノーベル賞をもらってBRACがもらわないのは、さっきの「しゃべりかた教室」に行った人と行ってない人のちがいですね。
糸井 なるほど‥‥。 でも、まったく新しい事業モデルですよね。
原 日本には、アメリカの「二番煎じ」をやってる人があまりにも多いでしょう。でも、きちんとあたまで考えて、その先のアイディアを出していかなければダメだと思うんですよね。
糸井 なまじ、勉強しちゃってる人が多いんですね。日本には。
原 アメリカの「二番煎じ」でビジネスをやっているような人は、二流だよね、はっきり言って。
糸井 ‥‥なんか、途中から、とつぜん、怒ったように見えるところが、おもしろいですね。
原 だれ? わたし?
糸井 うん(笑)。
原 いや、でもね、頭にきちゃうんですよ。アメリカの「二番煎じ」をやってる人のことを思うと、なんだかね(笑)。
糸井 しかし、原さんの、そのモチベーションはすごいですね。
原 まあまあ、私はもうね、アメリカにいて‥‥。
糸井 ずっと、怒ってるんですか?
原 いやいや、日本のことを尊敬される国にしたいんです、世界から。だから、それをじゃまするような人に対しては頭にきちゃうんですよね(笑)。
糸井 でもね、やっぱり、いちばん根っこにあるのは「個人の思い」じゃないですか。バングラデシュの話なんかを聞いていても、原さんの個性があってこそ、動いていくプロジェクトだと思うんですよ。
原 ええ、それは、そうかもしれませんね。
糸井 こんなに怒れる「お金持ちの人」っていいなぁと、思ったんです。
原 え? お金持ち?
糸井 いやいや、「お金持ち」というのもちょっと、いじわるな言いかたなんですけど‥‥。つまり、バングラデシュのプロジェクトはどこかから集めたお金で、動かすわけじゃない。
ご自分で稼いだお金を使って、もっとも効率のよいと思うやりかたで、進めているわけじゃないですか。
原 ええ、そうです。
糸井 同じようなことをやろうとした場合、資金的な理由やなにかで自己決裁できる範囲がせまいから、慣習だとか法律にしたがって、自分を曲げてでも、いちど「演技」をして‥‥。
そういうやりかたをとりますよね。ほとんどの人たちが。
原 まぁ、ふつうにやったら、そうでしょう。でも、実現するために何が必要かを考えれば、変わってくる。
糸井 だから、原さんの場合は、いままで、自力で積み上げてきた資金のプールを
上手に活用なさってるんですね。
そういう意味で「お金持ち」なんですが、さらにそこでモチベーションを失わずに、いまでも「しっかりと怒れる」ところがすばらしいなぁと思ったんですよ。
原 ‥‥じつはね、いま、ちょっと怒ったように見えたのは、思い出したんですよ、急に。
糸井 なにをですか?
原 2001年の、あの「9・11」の3日前、つまり「9月8日」って、じつは、昭和27年に、吉田茂首相が
講和条約の締結のためにサンフランシスコに行った日なんです。
つまり、日本が国際社会に復帰してから「50周年」にあたる日。
「9・11」のおかげで話題にもなりませんでしたが。
糸井 ああ、そうなんですか。
原 その記念式典をやったときに、わたしは日本人ですけど、アメリカに長いからあちら側の代表として同議長のひとりに任命されたんです。
で、日本からは政治家や財界人が出席した。
そのときにわたしは、日本の大会社の社長なんかだけでなしに、世界に誇れる技術を持った
日本の中小企業のリーダーに来てもらったらいいなぁと思っていたんです。
糸井 ふん、ふん。
原 あのときの人選を誰がやったかは忘れましたけど、通産省だったかな、どこか‥‥。
とにかく、結論からいうとね、出席したのは大手の電子商取引の会社の社長と、インターネット証券会社の社長‥‥。
糸井 わかりやすい、というか‥‥。
原 しまった、と思いましたね。
わたしにはアメリカ人の反応がわかるから。
糸井 つ まり‥‥。
原 案の定、アメリカ人がなんて言ったかっていうと、「日本人は、 いまもむかしも、モノマネか」と。
糸井 ああ‥‥。
原 悔しいでしょ。
いま、それを思い出していたから、ちょっと怒ったように見えたんでしょうね(笑)。
糸井 それのお話は、リアリティあるなぁ。
つまり原さんは、その一部始終をアメリカ側からの視線で、見てたんですね。
原 そう、そうなんです。わたしはね、「こんなのはアメリカにはないぞ、 すごい!」という技術を持った中小企業のトップに、来てほしかった。日本はけっして、モノマネ屋なんかじゃないんだというところをね、見せてやりたかったんですよ。