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彩遊記

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南日本新聞コラム

ここ華南・桂林は例年より早く気温がぐんぐん上がり連日三十五度を越える日が続く。日中のクラクラする熱気を避け、朝夕、太陽光線のやわらぐ時間に、一気にその日の予定を済まそうと思うのだが、朝夕は決まって、ドカーンという落雷とともに突然激しいにわか雨が降り始める。

思いがけない天気の変化にもかかわらず、先週、親子三人で桂林観光をすることになった。親子三人といってもぼくを家長とする所帯ではなく、ぼくを育ててくれた八十を迎えた父親と弟の三人だ。

残念ながら母親は日本で留守をまもっていたので男だけの旅行になったのだが、家族旅行は実に三十年振り。

それも団体のツアーではなく、オールドエイジ・三人の行き当たりばったりの自由旅行だ。団体旅行のセットされた気軽さとは違い、フリー旅行の場合は、普段なかなかお目にかかれないハプニングがつきものだ。もちろん、ぼくが桂林で暮らし、街を熟知しているので選んだフリーの旅だが、日本と違い大陸での旅行となると、ひとつひとつなかなか思いどおりに進まない。いくら街を熟知していても、交通機関の乗り継ぎや、宿に関するトラブルや、旅行者に付きまとうガイドを称した“うるさいやつら”には結構てこずる。

まぁ、これも、団体ツアーでは味わえないフリー旅行の醍醐味だと腹をくくれば、これはこれで楽しめる。しかし父親と弟にとって、予想もしないハプニングには驚きだったに違いない。
中国の行政区は日本とは反対で“市”の中に“県”が存在する。ここ桂林市は八つの県で構成されている。奇峰群の間を流れる漓江を下り、その中の一つである『陽朔県』とよばれる街を旅行した。

「桂林山水甲天下、陽朔山水甲桂林」(桂林の風景は天下一、陽朔の風景は桂林に勝る)と漢詩に詠われ、『陽朔県』は中国人なら誰でも知っている場所である。しかし日本からの団体旅行は通過するだけのケースが多い。
それとは逆に、世界を旅するリュックを背負ったバックパッカーたちの間では、景色の美しさ、食事のおいしさ、リーズナブルな宿の三拍子が揃い、中国には珍しく街中で比較的英語の通じる“聖地”でもある。ぼくら親子三人も、リュックこそ背負ってはいないが、この町に泊まることにした。

実は、ここで是非見て欲しいものがあったのだ。

北京オリンピック開会式の演出を手がける“張芸謀”がプロデュースした大自然を利用した野外劇だ。美しい山水画の世界をそのまま自然の舞台とし、演じるのは漓江沿いに住む漁民と農民、山間に住む少数民族の六百人余り。桂林に伝わる民話を元に、二キロに渡る漓江水域と背景にある十二の奇峰を巨大な照明と音響で織りなす演出。縦横無尽に原色を使い表現する大陸ならではのスケールだ。

各村々の農民や少女たちのひたむきな演技がぼうらの琴線に触れた。
昼間は暑かった桂林の旅も、次第に暮れゆく漓江に灯る漁火で始まるこのショーで三人の旅は幕を閉じた。
by ogawakeiichi | 2007-08-05 17:12 | 南日本新聞コラム
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