中国・桂林の冬の朝、大通りに出る路地や、比較的大きな職場や学校の前には、リヤカーに蒸篭を乗せた、何軒かの肉マン屋さんが出現する。
蒸篭から立ち上る湯気のまわりでは、登校中の子供たちや、出勤途中に簡単な朝食を済まそうとする人でごった返す。怪しそうな店は、からっきし人気が無い。
どんよりとした天気の続く冬の昼下がり、桂林の代表的風景、山水画に描かれた奇峰にかかる霧雲が次第に街中まで迫る。アスファルトの道はしっとり濡れる。
食堂街ではこの季節の風物詩、「火鍋」とよばれる鍋料理屋が準備をはじめた。
防寒用の分厚い透明ビニールの暖簾越しに見る火鍋屋さんでは、次第に罵声とも会話ともつかぬ大声と笑いが飛び交い、丸型テーブルの真ん中に置かれた鍋をつつく人で賑わいはじめる。
外では、おこぼれにあずかろうと痩せた野良犬がうろつく。
タバコの煙と白酒と大声と火鍋の熱気でムンムンするシーズンがはじまった。
外での食事は、“おやじさん”をよく知る馴染みの店がほとんどだ。初めての店にチャレンジするときは、あやしいモノを食わされないよう、あぶないものを食べないよう、動物的本能を全開させる。
街のデパートには最近、オーガニック食品と銘打ったコーナーも出現した。なかなかの“高値“だ。
冷え込みの厳しい日、鍋料理の中でも、特にからだが温まるという“犬鍋屋”さんが繁盛する。
しかし、北京オリンピックに向けて、異文化諸国を意識したのか、一昨年以来、表通りからは、すっかり姿を消した。目立たないよう、街裏の一角にまとめられ、食の文化を続けている。小金持ちには結構な人気だ。
食べる文化とは裏腹に、街には、ペットブームが到来している。比較的収入のある人のあいだでは愛玩犬の人気が高い。
学校前の、小奇麗な住宅街にも、二件目のペットショップが開店した。店内は毛の長いゴージャスな犬のまわりを、愛くるしい小型犬が走り回る。
二十四時間営業の看板を掲げる動物病院では、ペットの犬が足に点滴をうけ、飼い主が両手を添えて心配そうに見守る。
かつては、お年寄りが鳥籠を持ち寄り、鳥の鳴き声自慢を競いあわせていた公園の風景も、今では、散歩を兼ねた、犬自慢を披露する場所になってきた。
小型犬は、子供が手離れした夫婦に人気が高い。一九七九年以後、人口爆発をおさえる必要ではじまった “ひとりっ子政策”の影響もある。
大型犬は、ステータスのシンボル。愛玩より血統書付きでの投資目的という。
繁華街では農民らしき老婆が仔犬を抱え、買ってもらおうと通行人に声をかけている。
「都市は欧州、農村はアフリカ」と、あるドイツ人が中国を比喩した。
底冷えのする夕暮れ時、大通りの交差点は、ひっきりなしにクラクションを鳴らす黒塗りの車と、怒涛のように押し寄せる自転車で満ち溢れていた。